地球環境危機下で「いかに生きるか」を考えるシンポジウム②
27日開催のシンポジウムで司会を務めてくれたのは、JR貨物労組で書記をされている岩間祐美子さんです。初めてとは思えないほど、スムーズな進行で進めていただきました。
さて、4名のパネラーから報告のあとは参加者から意見をいただきました。
まず、田口さんと矢野さんの報告に対して、4名の方から意見がありました。
「私の出身の北海道では5月なのに30℃を何日も超えている」「より豊かにより便利にする経済活動と楽をするための生活スタイルそのものが地球温暖化になっていく一つの要因だということをまざまざと感じています」「異常気象の中での勤務で倒れている方もいる。環境の変化に対応するためにサマータイムの導入や暑いピーク時間には休憩を入れる等、規制を考えていかなければならないと思います」(宮城県・Mさん)
「JRからの出向として設備関係で働いています。夏の線路上の温度は気温よりも10~12℃高いことはJRのレール温度計の数値で把握しています。夏場の線路上は過酷な状況下です。下請け会社ですけども、実作業をするので一番危険です。3K職場ですので、若者が入ってはすぐに辞めてしまう万年人手不足の状態。約8割が60~70歳が作業している実情です。熱中症を避けるために夜間に施工できないか考えますが、割増賃金が発生したり、照明等の機材の調達もあり、費用も伴い、それに見合った(JR会社との)契約ではないことが一番の原因です」「会社は安全第一と様々な場で言いますが、毎年熱中症に関わる事象が発生する中、事が起きればこまめな水分補給や適度な休憩と簡単に言っているだけではないでしょうか」(秋田県・Tさん)
「昔と違って今は降ると、川が氾濫する。原因は大雨と河川の管理がされていない。砂利やヤナギがあって水がスムーズに流れないことだった。昨年、要望書を提出した結果、今年2月に河川改修工事が行われた」(福島県・Mさん)
「退職をしてから町内会や地域の高齢者とのサロン活動を行っている。あわせて海岸防災林づくりをしている」「現役時代はネイチャークラブを通じて人づくりをしてきた」「CO2を削減するために、私たちができることは木を植えること」「家庭でもエネルギーを減らすためにできることとして、車を持たずに仙台駅までの買い物も健康のために4km歩いている」(宮城県・Aさん)
人間活動と気候危機によって、職や生活を脅かしている現実はごく身近にあり、他人事ではいけないと感じました。
続いて、鈴木陸郎さんの報告に対して、5名の方から意見がありました。
「人間がハゲ山にした足尾の荒廃地で森を育てています。そのハゲ山のひとつに中倉山があり、北側の斜面は今でもガレ場が残り、雷雨が降ると土砂が流れています。この山の生息の限界地点には一本のブナが生きており、樹齢を推測すると120年ほどですので、煙害で息絶えた草木の悲鳴や廃村に追い込まれた村びとの怒りや悲しみを宿していると思っています。ところが、150年前からの銅山開発では森や人を苦しめましたが、150年後の今は、異常気象で緑化してきた草木が大雨や雪融けで土砂が流され、このブナの根の露出が拡大しています。放置するとこのブナは枯れてしまうのではないかと不安になり、私たちは7年前から土を運び揚げ、草の根の力で土砂流出を防止しています。森に生かされていることを実感してもらおうと、継続していますが微力な活動では不安が消えません」「鈴木さんの石炭火力発電反対の公判闘争報告を聞いて感じたことは、異常気象によって生活が脅かされている現状にブレーキをかけるには、地球を温めている二酸化炭素やメタンガスの排出を削減し、同時にそれらを吸収ししてくれる草木を健全な状態にしていくことだと思います。そのような願いを登山者に届けたいと、ブナ保護を継続しています」(茨城県・Sさん)
「私の研究のテーマは、足尾・渡良瀬川流域における公害と環境再生に着目しています。去年の4月、足尾で森びとプロジェクトと出会いました。 森びとの皆様は、地球温暖化にブレーキをかけるために森を作り上げています。それだけでなく、自然の再生が困難な煙害地で何十年もかけて森を育んできました。気候変動を解決するためには、様々な政策や技術的な議論が必要だと思いますが、森の再生はその基礎的なステップではないかと考えています」「この間、中倉山でのブナ保護活動に同行させていただきました。毎回綾線を歩くたびに、胸に複雑な感情が湧き上がります。松木堆積場にはヒ素や鉛を含んだ銅の精錬カスの黒いカラミがまだ山積みされています。周りには木が植えられていますが、樹種が単一でほとんどがヤシャブシです。しかし、森びとの森も目に映ります。春は淡い緑、秋は赤や黄色に色づく、生き物たちが暮らす森です。そこで「希望」を感じます」「よく言われるのは、植物は地球の生産者であるということです。人々が植えた木は、一本の命にとどまらず、その種がさまざまな動物によって運ばれます。1本の木を植えることは、地球上に生きる生き物たちに、未来への希望を植えることでもあると考えています」「温暖化は今を生きる、私たちがくい止めなければならない課題だと思います。石炭火力発電所の排出する二酸化炭素は日本だけでなく世界に影響を与えることに気づいて欲しいです」(東京都・Kさん)
「4月23日に神宮外苑を散策しました。再開発計画では1000本以上の木が伐採されようとしています」「世界中で起きている気候変動に目を向けていかなければ、私たちと未来を生きる子どもたちの生きる場所がなくなってしまいます。これに逆行しているのが東京都の都市開発です」「場所は違ってもみんなと手を取り合いながら行動をすることで道を拓きたいと思います。市民パワーで脱炭素・エネルギー政策の転換を求めてまいります」(東京都・Hさん)
「2014年には東海道線で土砂流出があり、10日間不通。2018年には西日本豪雨で100日間不通となり、本州から九州までの荷物が運べなくなりました。2020年には熊本で豪雨があり、6か月間鹿児島には荷物が届きませんでした。2021年は特に災害が重なり、貨物輸送に大きな影響が出ました」「(気候変動により)荷主が輸送モードを貨物輸送から二酸化炭素を大量に排出する船・トラック・飛行機での輸送に戻ろうとしている。貨物輸送は二酸化炭素の排出量が船の2分の1、トラックの10分の1、飛行機に至っては27分の1と言われていて、輸送モードとしては二酸化炭素の排出が少ない。荷主が他のモードに移ることは、二酸化炭素の排出が増えてしまうことにつながり、負のスパイラルに陥ることを懸念しています」(静岡県・Nさん)
「小田原かなごてファームでは、農業をやりながら自然エネルギーをつくっていくということで、発電所を5つ持っており、発電所で作った電気を使って飲食店を経営していて、それは日本で初めて自分で作った電気を既存の送電線を使って自家消費をすることができるようになっています」「よく経営者は政治に口を出すなと言われますが、思いっきり口を出しまっくて、干されたりすることもあるんですが、それでもめげずに小田原で活動をし、実践しています」「再生可能エネルギーのメリットは核のゴミもない・二酸化炭素の排出もない・コストが安い・地域の活性化・心豊かな生活が可能」(神奈川県・Oさん)
二酸化炭素の削減を貫徹することなしには私たちの生存は不安定のままです。二酸化炭素の吸収力を上回らないような生活には、少しの我慢が生じることもあります。鈴木さんからは、闘いを通じて漁師からの励ましや若者、市民の参加を勝ち取り、学習を重ねてアクションを起こす。そして闘いを振り返り、次の活動へと、組織を強化しながら闘いの輪を広げてきた教訓的な報告がされました。同時に政治や世論が気候危機の危機感を共有するために、大きなムーブメントにする必要があります。仮に1.5℃目標を達成しても、気候危機による被害は今よりもっと甚大化すると予測されます。このシンポジウムで出会いをスタートに、連帯を深めていければと思います。
最後に神田涼さんの報告に対して5組(9名)から意見と質問がありました。
・樹徳高校生から先輩・神田さんの質問
Q.「成長途中と成長後の二酸化炭素吸収量の具体的数値での違いは」
A.(神田さん)「3~4倍は違っています」
Q.「これからカーボンニュートラルを実現するためにどの程度二酸化炭素をを削減すれば良いのでし
ょうか」
A.(神田さん)「火力発電所の二酸化炭素排出量から見ていくと、現在の5分の1になれば今の森林の
量で賄いきれる。そこからさらに車の排気ガスや新しい技術があれば7分の1まで落
とせれば賄いきれる」
Q.「経済抑制によって起こる物価の変化や技術の停止のデメリットについてどのように考えています
か」
A.(神田さん)「大胆な経済抑制ではなくて、だんだんと減らしていけば物価への影響は出ないかな。
技術に関して言えば、政治任せになりますが気候変動抑制のための補助金があれば良
い」
Q.「経済抑制のための法の制定や企業の取り決めを大人に行わせるために学生ができることはあります
か」
A.(神田さん)「火力発電所反対の活動をしている方々がやっているように署名活動があります」
Q.「伐採した木をバイオエタノールの原料にする話がありましたが、木材の運搬や加工する際に多くの
化石燃料を使用する点や多大なコストがかかるという問題点がありますが、何か改善点はあります
か」
A.(神田さん)「今現在ない。大学の授業でも習ったのですが、どうにかしなくてはいけないねという
締め方になっていました。そこに必要な化石燃料については、最初はかかってしまい
ますが、1回バイオエタノールを作ってしまえば、そこからはバイオエタノールで機
械を動かし、運ぶ分のエネルギーはそこで回していけます。コストに関しては政府や
自治体からの補助金が出ないと難しいのではないかと思います」
「神田君の話を聞いてうれしかった。環境の問題は専門の人だけではなく、皆んなに知ってもらいたいこと」「ディベートでは、短期的な利益(試験のための勉強)と長期的な利益(環境等)の話が良く行われます。アメリカでは、生態系の中で動物がいなくなったらどうするか等のディベートが行われるが、アメリカが良いわけではない。災害については日本の方が良くできている。どっちが良いとは言えないが、もっと国際連帯・国際理解が必要だと思う」(栃木県・Zさん)
「先日、飯館電力株式会社を訪問しました。話を伺うと、原発は絶対稼働させないと。生活に欠かせない安全なエネルギーは自分たちで生産する。それを村の再生につなげるという理念と情熱を持っていました。今では、再エネの地産地消を進め、同時に脱原発・原発事故の風化の防止に取り組んでいました」「脱炭素社会がばら色のような希望の社会に見えるが、そこには政府の原発回帰や石炭火力発電継続ということが含まれており、気候危機に向き合っていかなければならない。まずはその現実を知ることから始まり、その原因、政治や企業の課題、そして我々に求められていることに背を向けてはならないことの大切さを学んだ」(福島県・Tさん)
「20年前まで小学校の教諭をしていました。学校は賢い子を育てるためにあるのであり、賢いというのは神田さんのような発言ができて行動できる子どもたちだと思います。大学生になって研究者になれという意味ではなく、足尾での体験を通して自分で一生懸命に考えて何故ということをどうしたら解決できるかを考える子どもたちをつくるのが教員の仕事だと思っています」「学校の仕事は、気づかせる・どうしたら良いか考えさせる・私たちは何ができるか考えさせることだと思います」(千葉県・Iさん)
「経済活動を自然界が温室効果ガスを吸収できる範囲内で活動を行っていく政治の仕組みを作っていかないと我々の運動の大きな壁になる」「2021年はコロナで経済活動が停滞して12億トンの二酸化炭素を削減することができた。2011年の東日本大震災後には全ての原発が稼働していなくても生活をすることはできた。よって経済活動を抑制することは可能です。ここに集った人たちが政治を変えるアクションを起こすことが重要」(群馬県・Tさん)
神田さんの報告では、若者の視点から自分たちが何とかしなければならないとの決意が感じられ、大人も若者の未来に対して真剣に向き合っていった場となりました。
また、アメリカのミシガン大学OGのキャッシー・ガスキンスさんよりアメリカで気候変動をどのように感じているかメッセージをいただきましたので紹介します。なお、キャッシーさんは2019年に森びとが足尾を訪れた彼女たちに環境学習をサポートが縁で関係が継続していました。「個人的には、私は自分や家族のエネルギー消費に敏感でいようと努めています。私たち一家は最近、四季すべてを味わえるミシガン州から引っ越しました。引越先は毎年1年のうち10か月も温暖な気候のテキサス州です。幸いにも、昨年12月に氷の嵐が襲来した時、私達はミシガン州に帰省していました。しかし、1週間後にテキサス州に戻った際に、まだ電気や水道が止まったままでした。昨年は2月に約210人が亡くなった冬の嵐に始まり、数か月後には全く同じ地域が観測史上で最も暑い夏を経験しました。テキサス州のインフラ設計は、こうした気温の乱高下に係るエネルギー消費が考慮されていません。現状では、テキサス州は化石燃料の産出で全米1位です。しかし、テキサス州は風力発電の供給ナンバー1にもなりました。テキサス州の住民は変革に向けて前進中です。そして、より清廉、より信頼できる複数のエネルギー源を望んでいます。」 (翻訳:弘永裕介サポーター)
まとめに立った清水卓(事業協会森づくり主任、森びと副代表)より「温暖化を抑えることも、SDGsを冠に付けて“環境にやさしい商品”とうたって購入を促されたり、ガソリン車からEV車、電池自動車への買い替えなど、企業が利益を得る方向に誘導されています。経済活動・生産活動を支えているのが私たち労働者・市民です。インフルエンザやコロナ感染で経済活動が抑えられたことが紹介されましたが、本質は私たちの意志で経済活動を抑えるということだと思います。少しの我慢を伴いますが、企業が莫大な利益を得て、労働者・市民の暮らしが疲弊するということがあってはならないと思います。どのような社会を創造していくのか、その社会の主役は誰なのか、次世代の若者たちが輝く脱炭素市民社会を共に考えていければと思います」「日本政府は2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを掲げ、2030年代にガソリン車の新車販売禁止を打ち出しました。それに伴い化石燃料からの転換を図る企業が増え、5月4日の毎日新聞の記事を見ると、ENEOSが和歌山製油所の閉鎖を有田市に宣告しました。製油所には従業員約450人に加え、協力34社の約900人の雇用を支えていました。自民党の国会議員が動いて、再生可能エネルギー施設をつくることになったようですが、いつ稼働するか見通しは立たず、閉鎖後の雇用は100人程度にまで落ち込むと伝えています。また、ホンダのエンジン部品製造拠点の栃木県の真岡工場も2021年に閉鎖が発表されており、自動車産業の雇用者数は1000万人に上ります。ですから、脱炭素社会への移行は、働く者にとっては雇用の問題であり、家族を含めた命の問題だといえます。そして、公平な移行を求めなければなりません。公平な移行とは、気候変動対策に伴う産業構造の変化の際に、誰も取り残さないこと。つまり、失業・働きがいの喪失や地域経済の衰退を招くことなく構造転換を目指す指針です」4名のパネラーの皆さんの報告、参加者からいただいた意見を通じて、私たちが生きているこの地球・社会で起きている現実が共有できたかと思います。大きな転換点に立っています。どのような脱炭素市民社会をつくりだしていくのか、本日参加された皆さんと地域の皆さんと、お茶を飲みながら語り合う場なども設けていただきながら、この地球環境危機下で「いかに生きるか」を考えていければと思います」と話がありました。
最後に、一般社団法人日本鉄道福祉事業協会・田城郁代表理事より、4名へのパネリスト、参加者へのお礼が述べられ、「定款では、労働者が案して暮らせる環境を守るための森づくり事業ということで認可を受けました。脱炭素社会に少しでも近づけることが日本鉄道福祉事業協会の社会的責務だと肝に銘じながら、森びとプロジェクトをはじめ思いを同じくする方々に学びながらともに歩んでいきます」と閉会の挨拶がありました。 様々な現場で感じている現実に対して私たちの考え方を語り合うこそ、異常気象におびえて生活する不安や危機感そして無力感を脱する一歩になります。今回のようなシンポジウムにとどまらず、地域での「お茶会」や志を共にする方々との連帯・連携の輪を大きくし、行動を起こしていくことが大切なことだと思いました。ありがとうございました。
(報告:小林敬)
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