自然の恵みは“ほどほど”に分かち合う・・・「森びとの心構え」その⑧
冬将軍が砦を構えると本格的な冬となめる足尾・松木沢。地表は凍土化し、鹿やウサギ、猿たちは寒風の中で餌を探すのが大変。松木沢に多いシダレスズメガヤという草は見向きもしない。どうしても若木の皮や冬芽に目が向き、危険を冒して柵の中に侵入する。
ポットに蒔いたドングリの幼木は2年間ほどドングリから栄養をもらう。猿はそのことを学び、芽が出た細い幹をポットから引き出し、根に付いているドングリを食べた。食べられない対策を講じると、どんぐりを諦めて桜の樹皮を食べていた。
鹿は、柵を飛び越えて若木の樹皮や冬芽を食べている。15年間にはその対策を色々と試した。ロープに白い看板を吊るして看板が当たる音で鹿を脅かす、ライオンの尿を撒いて臭いで驚かす、鹿が嫌がる漁網を柵外に張るなどを試した。効果があったのは漁網であったが、網が劣化すると効き目がない。看板の音は直ぐに慣れてしい、ライオンの臭いは脅威を感じなかったようだ。
今年の秋には、柵を一カ所低くし、侵入した鹿の出口を付けてみた。15年経っても生きものたちと向き合っての森づくりである。そこで教えられたのは、植えてから数年間の食害防止は重要だということ、柵や網等の人工物が劣化するということを生きものたちは学ぶということ、そして色々と試してみることの大切であった。
人間の都合だけで「獣害」として対策を考えるのではなく、共に森の恵みを“ほどほどに共有していく”というスタンスで生きものたちと向き合っていくことが、命の基盤を豊かにできるということであつた。改めて、生物社会の一員でしかない人間という冷厳な事実を突き付けられている。(理事 高橋佳夫)
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