渡良瀬川源流の森よ、よみがえれ!
先日、足尾の荒廃地の緑化に取り組んだ人々の苦労をまとめた「森よ、よみがえれ 足尾銅山の教訓と緑化作戦」(1990年4月第一刷)を執筆した元林野庁長官・秋山智英さんの訃報に接しました。
森びとの一員として足尾での森づくりを始めたときに、何度も読み返し、荒廃地での森づくりの困難さと、多くの先人の努力を学ばせていただきました。
秋山さんは1960年(昭和35年)当時、群馬県の沼田営林署長職にあり、足尾荒廃地を視察した際に見たものは、『足尾国有林を望見すると、全山むき出しの岩肌、赤茶けた土、一木一草も生えていない丸坊主の山並みの連続であった。一瞬、これらが山紫水明の国日本の山並みかと、自分の眼をうたがう程の強烈なショックを受けたことを今でも鮮明に記憶している。』『赤茶けた急斜面に、命綱を張りつつ懸命に植生盤筋工にとりくんでいた作業員の方々の真摯な姿や、とうとうとして流れる久蔵川の濁流が私の脳裏に今なお、きざまれている。』と著書の中で述べています。
足尾町民や林業・治山関係者の努力により、現在、その久蔵川流域の斜面には緑がよみがえり、濁流も、魚が回遊する清流となっています。
9月19日の森作業の後に久蔵川の森を見に行きました。林道を進むと関東森林管理局の大きな看板と、大きく生長した赤松の植栽地が目に飛び込んできました。
さらに車を進めると、川を渡る橋の先の道がえぐられ途切れていました。ビックリしました。バックして安全な所に車を止め、確認すると橋を補強する鉄骨の補強も亀裂が走り、道路は3mほどえぐられていました。昨年の台風による増水によってえぐられたのではないかと思いますが、緑化が進む久蔵川でも道路が寸断されるほどの水量(土石流?)が流れていることを見ると、森がなかったら、下流域の被害はどれほどになっただろうかと危惧しました。
当委員会は松木川の北側旧松木村跡地で森づくりを行っていますが、川を挟んだ中倉山北側の斜面(松木川南側)では、「動く土を止める」工事が行われています。まずは「草を生やし、土を止める」こと。流れ落ちる土砂を止める「砂防ダム」造りです。
人間が壊した自然は人間の手でよみがえらせなければなりません。「次は木を植えよう!」と秋山智英さんの声が聞こえてくるようです。
秋山さんが足尾荒廃地を視察してから60年を経た2020年。まだまだ荒廃地の広がる源流部です。困難だからこそ、多くの人々と手を取り合い、いのちを守る森をよみがえらせたい。
(筆者 清水 卓)
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